巻頭句    山茶花最新号と過去2ヶ月の巻頭からそれぞれ
 三人の句をご紹介します
 

<2024年4月号>
 雑詠
            三村純也選
 えり善の初売ならば覗きもす 神戸 山内茉莉
 子に結ぶ春着の帯の文庫かな
 人日の粥に玉子を落しけり
 煮凝をせせりて探す鯛の鯛
 丿と風花流れをりにけり
 煌めきて杓に溢るる初手水 伊藤とし子
 買初の母に供ふる和菓子かな
 掛時計遅れしままに日脚伸ぶ
 ハワイより届きし避寒便りかな
 波音の遠のいてゆく避寒宿
 金箔のごと河豚刺しを皿に貼る 神戸 上岡あきら
 十三の路地の戸板の河豚の鰭
 包丁に先代の銘河豚捌く
 鰭酒に酔うて架橋の灯が滲む
 島を訪ふ三年河豚の名に魅かれ
 飛天集
            純也選
          金沢  松室美千代
 神神の船酔もなく宝船
 宝船波間に赤き海老跳ねて
 帆柱に夫婦鯛掛け宝船
 除夜の鐘撞き戻る背にまた一つ
          榛原  佐藤弥澄
 スキー履き弾薬庫守る合言葉
 山スキーライフルかつぎ嶺走る
 スキー履き救難橇曳く五人かな
 竹スキー造りし頃のなつかしく
        シンガポール 杉原祐之
 赤砂岩造の御廟草茂る
 かはほりの糞の匂へる遺跡かな
 宮殿を仰ぐ川原の南瓜畑
 五十度の土に転がる西瓜かな
 瞳々集
  初夢、ラグビー
            山内繭彦選
 初夢を聞かれもやもやしてをりぬ 水戸 石田香緒子
 ジャッカルに沸くラグビーの応援団
 筋肉の鎧のごときラガーマン
 吠えながら円陣を解くラガーかな シンガポール 杉原祐之
 初夢のダッカ駐在切り出され
 泥まみれに血まみれ縋るラガーかな
 初夢の中らし笑ふ子の寝言 立川 小室藍香
 耳切れるほど押し合へるラガーかな
 敵躱はしかはし走れるラガーかな
     




<2024年3月号>
     
 雑詠
            三村純也選
 泣き崩れたる淀殿も菊人形 新潟 中本真人
 質問もその応答もマスクして
 突風に雨混り出し鰤起し
 ねんねこの子の柔かき額髪
 抽斗の刻み葱振り夜鷹蕎麦
 社家町の土間薄暗き酢茎宿 高槻 畠中俊美
 渓に沿ひ紅葉明りのいく曲り
 耳遠き二人肩寄せ日向ぼこ
 顔見世のまねき見上ぐる人だまり
 大根焚頂きし間の一時雨
 ムガールのかつての首都の大夕焼 シンガポール 杉原祐之
 聖廟の御前広場に蝿集る
 聖廟の前の片陰喜捨を乞ふ
 カーストのまだまだ残り終戦日
 聖廟の前に胡坐の日焼かな
 飛天集
           純也選
        吹田  山本澄恵
 誘はれて来てみたものの薬喰
 度胸据ゑ口へ運びし薬喰
 案外にいけるかもとふ薬喰
 ぽかぽかと酔ひも回りて薬喰
        鈴鹿  奥 安則
 大綿の信長塀に舞ひ上がる
 紅葉して街路樹ここも花水木
 絵馬鳴らし風吹き抜ける神無月
 襟巻の赤きほつぺの片ゑくぼ
        大阪  しのぶ日月
 アルミ缶潰してしくと鳴る寒さ
 凩や拳めきたる木々の瘤
 ライダーの鋲の打たれし裘
 北風の針の飛礫となりにけり
 
 瞳々集
  年忘、山眠る
           田中由子選
 年忘本音出でくる三次会 内田陽子
 いつしかに手酌となりて年忘
 高階の夜景が肴年忘
 金髪のかつら余興に年忘 京都 織作香代
 老輩の次回約して年忘
 峠茶屋閉ざされ山の眠りけり
 物忘れ度忘れもして年忘 枚方 枚方 吉本隆太郎
 まほろばの大和三山眠りけり
 渓の音かすかに残し山眠る
     



<2024年2月号>
     
 雑詠
            三村純也選
 あれと呼ぶおでん屋の裏メニューかな 大阪 中西英明
 盆栽の松の手入のピンセット
 姉三は晴れて四綾の片時雨
 初霜の消え残りゐる捨田かな
 再雇用されて勤労感謝の日
 目貼して地震揺さぶりし家に住む 芦屋 長安悦子
 爪楊枝ひと役買ひて菊手入
 足を抜く熟練のこつ蓮根掘
 キャンパスに映画館あり小鳥来る
 不器用をいうてはをれず隙間張る
 十薬を採つて乾かしそれつきり 神戸 山田綾子
 釣宿の目貼の部屋の雑魚寝かな
 乏しき餌追ひ寒禽となりゆくか
 手をつなぎゆく老夫婦冬ぬくし
 小春日のロケ住民もエキストラ
 飛天集
            純也選
         長岡京 藤堂くにを
 南座にまねき上れば時雨けり
 時雨去り閑けさだけを置いてゆく
 遠景となるほど濃ゆき冬紅葉
 落葉踏む音乾いたり湿つたり
          奈良  髙橋 翠
 芒野を分け入りオートキャンプ場
 竹笊に盛る松茸のカナダ産
 天武忌の写経に集ふ菊日和
 寺を出て秋篠窯へ木の実落つ
          鈴鹿 卯滝文雄
 張り終へて雪吊水に映えにけり
 虎落笛星のまたたき増やしつつ
 寄鍋や釣果の鯒も鮎魚女も
 船上のディナー賑はふクリスマス
 瞳々集
  茶の花、鳥の市
            中本真人選
 茶粥ありますと茶の花垣にあり 長岡京 藤堂くにを
 次郎長の国に茶の花日和あり
 酉の市深夜最も賑はひぬ
 茶の花の小さく咲いて誕生日 伊藤とし子
 茶の花のさかりとてなく散りこぼれ
 尼寺の低き垣根に茶の咲けり
 塔頭の低き茶の花垣匂ふ 高槻 畠中俊美
 宇治に来て茶の花日和賜はりぬ
 仲見世の人混み抜け来酉の市