| 近 詠 | 三村純也主宰の近詠です （山茶花４・３・２月号所載） |
| 花 |
| 三村純也 |
| 厩出しに主峰も雲を脱ぎにけり |
| 白衣着て御料の牧の厩出し |
| 嵐山を眺めの卓の桜餅 |
| 野点には冷ゆる日和の桜餅 |
| 吉野 四句 |
| 花の茶屋二階もありと呼び込める |
| 谿よりの風の冷たき花の茶屋 |
| 枝垂れきり咲ききる花に翳りなし |
| バギーの子眠れるままに花巡る |
| 残花とは言へど人出の日曜日 |
| 雪洞を吊りたるままの残花かな |
| ゆば |
| のどけしや荷を運びつつ驢馬尿り |
| 春愁や通過の駅の名を読めず |
| 鳩が来て雀隠れを啄める |
| 蕨 |
| 三村純也 |
| 眉根寄せ狂女がほなる官女雛 |
| ひとすぢの白髪光れる官女雛 |
| 治聾酒を飲めば耳鳴り治まりぬ |
| 弥勒の世信じ痩畑打ちにけり |
| 繕へる垣と手入ですむ垣と |
| 卒業へ再試験とふ綱渡り |
| 昨夜の時化残りはをれど磯開 |
| 地蔵とし祀る岩あり磯開 |
| 大干潟とてあそこまで自転車で |
| はか |
| 鳥帰り陵星霜を重ねゆく |
| 土止めに摘み残しある蕨かな |
| つか なぞへ |
| 日当りの墳の傾斜の蕨狩 |
| さわらびのまことしやかにのしゑがく |
| 和布刈 |
| 三村純也 |
| 須磨 五句 |
| 和布刈舟明け放れゆく波にはや |
| 見渡してどれが海苔舟和布刈舟 |
| 和布刈竿操るほどに撓りつつ |
| 長槍の如く扱いて和布刈竿 |
| 太陽へ刈りし和布を差し上ぐる |
| 水舐めてしたり顔なる恋の猫 |
| 追はれゐし方が追ひかけ猫の恋 |
| 熊野 二句 |
| 木の実植ゑ山の命をつなぎゆく |
| 八咫烏翔けし嶺々木の実植う |
| 肩凝りをつのらせてゐる余寒かな |
| 近江 二句 |
| 魞挿すやあはやと舟の傾ぎもし |
| 泥被りてもかぶりても蘆の角 |
| 二月二十七日 汀子一年祭 |
| 歳時記に忌日加はる春寒し |